今年の8月、偽の国会議員バッジを付けて議員になりすまして、国会や官公庁への侵入を繰り返していた男が逮捕された事件がありました。議員バッジはスーツの襟などに付けるもので、これを付けていれば国会内はもとより各省庁の建物にはノーチェックで入ることができます。逆に付けていなければ、議員本人であっても国会の本会議場には入ることができません。
国会内の衛士さんは国会議員の顔と名前を覚えていて議院への出入を確認していますが、時にはバッジの有無だけで入館時のセキュリティーチェックを済ましているかも知れません。官公庁の警備は民間会社に委託されていますから、チェックはバッジの有無だけで行っていると思います。今回の事件はそんな「穴」を衝かれたものだったと思います。
さて、このフリーパスにもなる議員バッジですが、正式名称は「議員記章」。衆参の両議員のみならず、都道府県議会議員、市区町村議会議員も同様のバッジ(デザインは違います)を着用しています。議員バッジに関して国会事務局に問い合わせてみますと、国会議員のバッジの着用は明治23年の第一回帝国議会の時から。現在のデザインになったのは昭和24年、現行憲法下の第6回臨時国会からだそうです。その他のルールは衆議院先例集に従っていて、成文化された法律はありません。先例集には例えば、「議員は、任期中一定の記章を帯用する」、「記章を帯用しなければ議院に出入することを許さない」とあります。
議員バッジは選挙で当選するごとに新しいものが支給されます。解散や任期満了あるいは辞職のときにも返還しなくてよいので、当選回数が10回の人は10個持っていることになります。
議員バッジは着用者の仕事や勤務先の身分を示すためのものと考えれば、一般の社員章などと同じものです。それに通行証など身分「証明」の機能を持たせているために、今回のような偽バッジによる国会内への侵入事件が起こったと考えられます。国会議員の「顔」と「バッジ」でフリーパスとしている現状は、セキュリティーの点では問題があると言わざるを得ず、政府要人のみならず国民の負託を受けている議員の安全のためには、議員バッジとは別に各々に発行されている顔写真の入りの国会議員証明証を使用した入館管理に移行していくべきかも知れません。
とは言え、今のIT時代以前の慣習を無くしていくことは、国会が一般の企業のようになっていくようでもあり、国会から国家の民主主義を具現化する“舞台装置”としての伝統や威厳が無くなってしまうのは、それはそれで寂しい気もするのです。